安倍内閣は7日に、低所得高齢者を対象に1人につき3万円の「臨時給付金」を支給する政策を与党に提示しました。
政府はこの「臨時給付金」のために、15年度補正予算案に3400億円を計上しています。
アベノミクスの賃上げ効果が及ばない低年金者に対する対策とのことですが、この施策に対し、「選挙前のばら撒きだ」という非難の声も多く上がっています。
今回の「臨時給付金」は1人につき3万円の支給と、その金額の大きさが目を引きます。
過去の給付金と比較してみると、2009年の「定額給付金」が1人あたり1万2000円、2015年の「臨時福祉給付金」が1人あたり6000円となっており、今回の「臨時給付金」の支給額の大きさが改めてわかります。
推計約1250万人を対象に計3400億円ものお金が支給される今回の給付金。
はたしてこれほどまでの給付が必要なのでしょうか?
今年度の流行語大賞候補に「下流老人」というワードがノミネートされたことからもわかるように、高齢者の貧困は非常に大きな問題です。
特に一人暮らしの高齢者、いわゆる独居老人の多くは苦しい生活を余儀なくされています。
全国に推計600万人いるといわれている独居老人のうち、約半数の300万人は生活保護水準以下の年金収入しかありません。
にもかかわらず、実際に生活保護を受給しているのはわずか70万人。つまり、残りの230万人は生活水準以下の暮らしを送っているのです。
こうした数字から分かるように生活の苦しい高齢者が多いのは事実であり、それを考えれば今回の「臨時給付金」も致し方ないもののように思えます。
しかしちょっと待ってください。
生活が苦しい高齢者が多いのは事実ですが、今回の「臨時給付金」については、その支給条件に大きな疑問が残ります。
今回の給付金については、現状、年金収入額を基に支給対象かどうかを判断することになっています。
つまり、対象となる高齢者の貯蓄額や金融資産の保有状況などは考慮されない可能性が高いのです。
本当に生活が苦しい人と貯金が何千万もあるような人、これらの区別がなく一律で3万円が支給されるというのであれば、税金を納めている現役世代としては納得しがたい部分もあるでしょう。
そもそも「年金暮らしの高齢者にはアベノミクスの効果が及ばないから」といった名目で提示された今回の「臨時給付金」ですが、現役世代でアベノミクスの恩恵を受けていない層はどうなるのでしょうか?
多くの中小企業や若年層に多い非正規雇用の労働者についても、アベノミクスの恩恵を受けているとは言い難い部分があります。
これらの生活の苦しい現役世代の存在を無視して、高齢者のみに安直に3万円を支給するというのであれば、今回の給付金が選挙対策のばら撒きであると言われても仕方がないのかもしれません。
今回の臨時給付金にかかる総額が3400億円にもなるのに対して、かねてより安倍政権が「介護離職ゼロ」に向けて急務と宣言していた介護人材の確保にかかる予算は500億円に抑えられています。
500億円という金額は、決して小さな額とは言えないものの、臨時給付金の3400億円と比較するとどうしても控え目な予算といった印象が拭えません。
この事を受けて「安倍内閣は現場の働き手を軽視している」「介護離職ゼロを目指すと言っているが、やってることがチグハグだ」などと非難する介護関係者も多く、政府の思惑と現場の意識とのズレが感じられます。
このような反発の背景には、今年初めに実施された介護報酬の引き下げも影響していると考えられ、多くの介護事業者は依然として苦しい経営を強いられそうです。
予算の分配は難しい問題で、誰もが納得する予算案を組み上げることは難しいかもしれません。
それでも「本当に支援を必要としている人は誰なのか」という点を今一度見つめなおして、今一度、支給条件の詳細などを検討しなおして欲しいものです。